DEPARTMENT OF HEARING IMPLANT SCIENCES
SHINSHU UNIVERSITY SCHOOL OF MEDICINE
若年発症型両側性感音難聴
若年発症型両側性感音難聴は、若年(40歳未満)で発症し、両耳ともに徐々に難聴が進行する(聞こえが悪くなる)感音難聴を主な症状とする病気です。若年発症型両側性感音難聴の診断には、上記の症状に加え、(1)遺伝学的検査で原因となる遺伝子(11遺伝子、ACTG1 遺伝子、CDH23 遺伝子、COCH 遺伝子、KCNQ4 遺伝子、TECTA 遺伝子、TMPRSS3 遺伝子、WFS1 遺伝子、EYA4 遺伝子、MYO6 遺伝子、MYO15A 遺伝子、POU4F3 遺伝子)の病的バリアント(病気の原因となる遺伝子の塩基配列の違い)が見つかっていること、(2)他の原因(例えば騒音、外傷、薬剤、急性ウイルス感染)による難聴ではない事が明らかであることが必要です。
上記を満たす患者さんのうち、聞こえが良い方の耳(良聴耳)の聴力(500、1000、2000Hzの平均値)が70dB以上である方が指定難病の対象となります。
一般的には、若年(40歳未満)で発症し両耳とも徐々に難聴が進行し聞こえが悪くなることが特徴で、軽度難聴から発症し、その後、徐々に進行していきます。難聴のタイプ(聴力型)や聴こえの程度、難聴の進行の速さは原因遺伝子により異なります。耳鳴やめまいなどを合併する例も多く、生活の質を低下させることがあります。
「若年発症型両側性感音難聴の遺伝学的検査」は保険収載されており、遺伝カウンセリング体制の整った国内の多くの医療施設で検査が行われています。検査を希望される場合は、まず、かかりつけの耳鼻咽喉科にご相談いただき、お近くで遺伝学的検査を行っている施設を紹介していただくことをおすすめします。
現在までに本疾患を根本的に治す有効な治療法は確立されておらず、難聴の程度に応じて補聴器あるいは人工内耳(残存聴力活用型人工内耳を含む)を用いて聴こえを補う治療が行われています。「難聴が徐々に進行している」と感じた場合、早めに耳鼻咽喉科を受診し、聴力検査を受けてください。難聴の程度に応じて早めに治療(補聴器や人工内耳)を行うことが望ましいです。また、両耳とも段々と進行する(聞こえが悪くなる)難聴となりますので、定期的に耳鼻咽喉科で聴力検査を行い、補聴器や人工内耳の調整を行う必要があります。
診断基準
<診断基準>
若年発症型両側性感音難聴
<診断のカテゴリー>
次の3条件を満たす感音難聴のことである。
1.遅発性かつ若年発症である(40歳未満の発症)。
2.両側性である。
3.遅発性難聴を引き起こす原因遺伝子が同定されており、既知の外的因子によるものが除かれている。
解説
1.遅発性の若年発症について
(1)40歳未満での発症が標準純音聴力検査で確認されたもの。
健常人を対象にした大規模調査の結果より、加齢に伴う標準純音聴力検査における聴覚閾値の平均値は
125Hz、250Hz、500Hz、1000Hz、2000Hz、4000 Hz、8000Hzの全周波数にわたり55歳未満では20dB未満で
あることが明らかとなっており、加齢に伴う聴力の悪化は55歳以降に認められる。したがって40歳未満で
難聴があるとすれば医学的には加齢以外の要因によるものであると考えることが妥当である。
(2)遅発性の発症あるいは観察期間中の進行が確認できたもの。
・新生児聴覚検査、1歳半健診、3歳児健診、就学時健診のいずれかの時点において難聴がないことが証明
できるもの。
・耳鼻咽喉科にて標準純音聴力検査を施行し、観察期間中に難聴の進行があることが証明できたもの。
2.両側性について
両側の感音難聴があり、良聴耳が中等度以上の難聴であるもの。両側性とは常に両側が同様な病態を示すという
意味ではなく、両側罹患という意味である。したがって、両側性感音難聴で一側のみが進行するという例も
含まれる。
3.原因について
(1)既知の遅発性・進行性難聴を引き起こす原因遺伝子が同定されている
既知の遅発性・進行性難聴を引き起こす原因遺伝子としては、現在までに、ACTG1 遺伝子、CDH23 遺伝子、
COCH 遺伝子、KCNQ4 遺伝子、TECTA 遺伝子、TMPRSS3 遺伝子、WFS1 遺伝子、EYA4 遺伝子、MYO6 遺
伝子、MYO15A 遺伝子、POU4F3 遺伝子の変異が同定されている。これらの遺伝子変異が同定され、かつ
上記の聴力基準を満たす症例は先天性難聴、加齢性難聴とは異なる病態であり、本疾患であると考えることが
妥当である。なお、研究班の実施した大規模調査より、各遺伝子変異による難聴者の占める割合は、難聴者
全体(加齢性難聴は除く)の0.14%~1.9%程度であることが明らかとなっている。
(2)既知の外的因子が除外されているもの。
例えば純音聴力検査で4000Hzの閾値上昇を認める両側性騒音性難聴、CT検査で側頭骨骨折が認められる
両側性外傷性難聴、耳毒性薬剤の使用歴が明らかな薬剤性難聴、ウイルスIgM抗体価上昇を伴う急性ウイルス
感染が認められる例など外的因子が明らかなものは除く。
<重症度分類>
以下の重症度分類において3高度難聴以上を対象とする。
聴覚障害:
0:25dBHL 未満(正常)
1:25dBHL以上40dBHL未満(軽度難聴)
2:40dBHL以上70dBHL未満(中等度難聴)
3:70dBHL以上90dBHL未満(高度難聴)
4:90dBHL以上(重度難聴)
※500、1000、2000Hzの平均値で、聞こえが良い耳(良聴耳)の値で判断。